野球肩とは?

野球でボールを投げる時の肩の痛みを野球肩といいます。
炎症がひどい場合は普段の生活も痛みを伴うこともありますが、一般的には日常生活には支障がなく投げる時だけ痛いというのが野球肩の特徴です。
肩の痛みは、肩の前が痛かったり、後ろが痛かったり、上の方が痛かったり、中が疼くように痛かったりとさまざまです。これは痛めている筋肉や靭帯が違うからです。

ストレッチの目的

投げすぎやオーバーワークで疲れが溜まってくると次第に筋肉は硬くなります。また股関節や肩甲骨の動きが悪ければ、肩ばかりに負担が集中します。
ストレッチをおこなうことで筋肉の疲れをとり、関節の動きをよくすることで肩への負担を軽減することができます。
さらに、股関節や肩甲骨の動きが良くなると、コントロールが良くなったり、球速がアップしたりパフォーマンスのアップにつながります。
つまりストレッチをおこなうことで、ケガの予防にもなりピッチングの能力も向上するのです。ですので本気でピッチャーをされている方は練習やトレーニングと同じように真剣に取り組んでもらえればと思います。

野球肩を予防するために知っておきたいこと

①子供の頃は体の使い方が大切

片足で立つとグラグラする、ケンケンがうまくできない、縄跳、鉄棒、腕立て伏せ、腹筋などなど、最近はこのような基本的な体の使い方がうまくできない子供も多いように感じます。
一見、野球には関係ないように思われますが、このような体の使い方は投げる、打つどちらにも大切です。
例えばアメリカのように子供の頃から様々なスポーツをしていると自然に体の使い方がうまくなります。
日本の環境では難しいかもしれませんが、小学生くらいの時期までは野球だけでなく遊びの中でいろんな運動を取り入れることも大切です。

②下半身の柔軟性が大切

例えば、股関節が硬くなると前足への体重移動が早くなり肩や肘への負担も大きくなります。
「肩の痛み」というとどうしても肩ばかりに意識がいきがちですが、このように下半身の硬さが原因で肩を悪くしているケースも少なくありません。
特にピッチャーの場合、下半身の柔軟性は球の速さやコントロールにも関わります。股関節が硬いとできない練習メニューもありますので、下半身の柔軟性はピッチャーにとって欠かせない要素になります。

③肩は鎖骨と肩甲骨から動く

鎖骨
肩関節は鎖骨と肩甲骨と一緒に動くので、鎖骨や肩甲骨の動きが悪くなると肩に負担がかかります。

肩を動かす際に、「肩甲骨を使って」とか「胸から動かす」などと指導されるのはそのためです。ただ、いくらそう意識しても体が固ければ思うように再現できないでしょう。

肩だけではなく鎖骨や肩甲骨の動きをよくすることが野球肩の予防には欠かせません。

これらのことを踏まえて普段からストレッチやトレーニングをおこなっていただければと思います。
こちらのページでは、上半身(肩中心)、股関節、体幹に分けて、予防のために特に重要だと思われるストレットをご紹介します。

鎖骨と肩甲骨の角度

ストレッチの注意点

ストレッチは練習前と練習後ではそのやり方に違いがあります。
練習前は「今から動くぞ!」と体に刺激を入れ筋肉を活性化させることが目的です。専門的には「バリスティックストレッチ」といって、ラジオ体操のように反動をつけるようなストレッチが効果的です。

逆に練習後は、疲れを早く回復させるために筋肉の緊張を取るようなストレッチが効果的です。一般的なゆっくりじっくり伸ばすストレッチで「スタティックストレッチ」といいます。純粋に体を柔らかくする時もこのストレッチをおこないます。
今回ご紹介知るのはスタティックストレッチですので、練習後かお風呂上がりなどにおこなうか、練習の前ならウォームアップの前におこないましょう。

上半身のストレッチ

①肩内旋(ないせん)ストレッチ

野球肩の要因になりやすい、肩後方の筋肉を柔らかくするストレッチです。

肩後方の筋肉
肩内旋ストレッチ
投げるほうを下にして横向きにねます。肩と肘を90度に曲げます。上の手で手首を持ちベットに向かって倒していきます。
このとき肘や肩の位置が動かないように注意してください。反動をつけずに20秒ほどかけてゆっくりと伸ばしてください。少なくとも指が下につくくらいは柔らかくしましょう。

②広背筋のストレッチ

肩甲骨の動きが悪い人は、広背筋が硬くなっている可能性があります。

広背筋
広背筋ストレッチ
まず写真のように顔の前で両手・両ひじをつけます。次に地面に腕を置いて、肘が離れないように体を後方に引きながら腕を伸ばしていきます。
背中のあたりが伸びているように感じればOKです。両肘が離れずに顔よりもあげられるくらいの柔軟性が目安です。

③上腕三頭筋のストレッチ

リリースの際に負担のかかりやすい上腕三頭筋のストレッチです。

上腕三頭筋
上腕三頭筋のストレッチ
まず背中をさわるように腕を頭の後ろに回します。反対の手で肘を持ち腕を引っ張ります。わきの外側から腕の後ろの筋肉が伸びる感じがすればOKです。体も一緒に倒すと広背筋のストレッチにもなります。

④大胸筋のリリース

大胸筋が硬くなるとしなやかな腕の動きができなくなります。

大胸筋
大胸筋のストレッチ
大胸筋は、筋肉をつかんだ状態から伸ばす「筋膜リリース」という方法を用います。
わきの下の4本の指を潜り込ませると大胸筋をつかむことができます。4本の指と親指で大胸筋をしっかりとつかみつつ、腕を後ろに引いていきます。その際顔も反対側を向けるとより効果的です。

ストレッチとは違いその状態をキープしなくても良いので、開いて閉じてを10回ほど繰り返します。少し痛いかもしれませんが、ストレッチよりも効果的に筋肉を柔らかくすることができます。

④小胸筋のリリース

小胸筋は大胸筋の奥にある小さな筋肉ですが、肩甲骨の動きに関わるとても大切な筋肉です。

小胸筋
小胸筋のストレッチ
鎖骨の外側にぽこっと飛び出た丸い骨(烏口突起)があります。そのすぐ下側に小胸筋がありますので指でしっかりと圧迫します。
指で押さえたまま大胸筋を伸ばした時と同じように腕を閉じたり開いたりを10回ほど繰り返します。

股関節のストレッチ

股関節はピッチングにおいて最も大切な関節です。股関節が硬くなると体の開きも早くなり、上半身にパワーを伝えにくくなります。ピッチャーの基本中の基本ですのでしっかりと取り組みましょう。

股関節の外旋(がいせん)ストレッチ

パターン1

股関節外旋ストレッチ1
両ひざを立てて片方の足をもう片方のひざの上にのせます。できるだけひざを外側に向けた状態で上半身を前に倒していきます。
この時に背中だけ曲げるのではなく、股関節から曲げていくことでお尻の筋肉が伸びているのがわかると思います。

パターン2

股関節外旋ストレッチ2
両方の足の裏を合わせるように座り、両ひざをしっかりと外に開きます。
この時に背中が丸くなりすぎないように注意しましょう。骨盤を起こして背中を伸ばすようにします。
可能な方はその状態から体を前にかがめてみてもOKです。

股関節の開脚

股関節の開脚
まずは片方の足だけ開きます。できる方は足を触るようにして足の筋肉を伸ばしましょう。

右左と交互におこない、今度は両方の足を開きます。骨盤を起こし背骨を伸ばして姿勢を正します。できる方はその状態から前かがみになります。

本気でピッチャーをしたい選手は少なくとも体を前に対して肘をつける、できるなら頭がつくくらいの柔軟性が必要です。

股関節の内旋(ないせん)ストレッチ

股関節の内旋ストレッチ
両ひざを90度に曲げて片方の足をもう片方のひざの上に置きます。

上に置いた足で下の足を内側に倒します。この時内側に倒したほうのお尻がなるべく浮かないようにします。

ひざの角度も曲げすぎると効果がなくなるので90度程に曲げておきます。

伸展ストレッチ

腸腰筋という筋肉を伸ばしていきます。

腸腰筋
伸展ストレッチ
写真のように前の足は曲げて後ろの足は伸ばします。この状態からお尻を下げていくと、後ろに伸ばしたほうの股関節の前側が伸びます。

体幹のストレッチ

胸郭(きょうかく)のストレッチ

胸郭のストレッチ
写真のように横向けに寝ます。上側のひざは曲げて床につけるようにします。
両腕は体の前に伸ばしておきます。ここから上の腕を開いて、体の前(胸郭)を伸ばしていきます。この時にひざが地面から浮かないように注意します。

背骨のストレッチ<Dog & Cat>

背骨のストレッチ
まずは、背中から腰にかけてできるだけ反らします(→ Dog)。骨盤を前傾させみぞおち辺りを地面に向かって下げるイメージです。

今度はできる限り背中を丸くしていきます(→ Cat)。今度は骨盤を後傾させて背中を天井に持ち上げるイメージです。

この2つの動きを取ることで、ピッチャーに必要な背骨や肋骨の柔軟性が高まります。

股関節外旋 & 胸郭伸ばし

股関節外旋&胸郭伸ばし
両方のひざを持ってしっかりと足を開きます。
肩を内側に入れるような形で、股関節と背骨を同時にストレッチしていきます。ひざとつま先はできるだけ外に向けてお尻はひざの高さまでしっかりと下げておきます。

これらのストレッチは予防のために毎日練習後や、お風呂上がりにしていただくと効果的です。

すでに痛みが出ている方は少し難易度は上がりますが、セルフで痛みを改善する方法もあります。そちらの方はより解説が必要になりますので、ブログや公式YouTubeチャンネルををご覧ください。

きっちりストレッチをおこなうこととができれば防げる肩の痛みもたくさんあります。

それでも全ての痛みを防げるわけではありません。そのような方は投球フォームを見直してみたり、きちんと治療を受けるようにしてください。

MORIピッチングラボYouTubeチャンネル